シンガポールの学校と教育制度

シンガポールは1819年から1942年までイギリスの植民地だったため、教育制度はイギリスの影響が大きい。小学校は6年、中学校は4年で、高校は2年だ。小学校はプライマリースクール(Primary School)で、中学校はセコンダリースクール(Secondary School)で、高校はジュニアカーレッジ(Junior College)で、称呼もイギリスから影響を受けている。

また、シンガポールには日本みたいな受験がなく、小中高を卒業する前に全国共通試験を受け、その成績で進学校を希望するのだ。小学校を卒業する前にシンガポールのPSLE[1]という試験を受け、その成績で中学校に申し込む。同様に、中学校を卒業する前に、イギリスのキャンブリッジ試験(GCE Oレベル、またはNレベル[2])を受け、高校を卒業する前に、イギリスキャンブリッジ試験(GCE Aレベル[3])を受けるのだ。

[1]: Primary School Leaving Examination/ [2]: Ordinary/ Normal Level/ [3]: Advanced Level

シンガポールが1965年に独立するまでは、中国語で授業を行う華僑学校と英語で授業を行う学校に分かれていた。しかも、当時親密に関わっていたマレーシアの影響で、マレー語も必須科目だった。しかし、1965年にマレーシアから離れ、独立した時、当時の首相リー・クアンユー氏がアメリカをはじめ、西洋の経済発展に英語の重要性を察し、教育実施言語を英語に変えた。それと同時に、自分のルーツである中国の潜在力にも気付き、義務教育には母国語の授業を取り入れたのだ。

小学校では、英語、母国語、数学、体育、音楽、道徳、社会(高学年)、科学(高学年)といった授業を受ける。2004年まで、小学校4年生の時、レベル分けの試験が実施された。EM1(一番レベルが高い)、EM2、EM3という3つのレベルに分かれていた。小学校5年生から自分のレベルに合った教育を受け、レベルが上がったり、下がったりすることが稀にないので、小学校5年生の時点で、自分の運命が決まったといっても過言ではないだろう。しかし、あまりにも早い段階で子供たちの学力を決めつけることが批判され、レベル分け試験が排除された。

1.      シンガポールの中学校・GCE Nレベル、Oレベル試験の紹介

中学校では、生徒の能力によって、6試験科目から11試験科目を取ることが可能だ。試験科目とは、GCEの試験で正式に受ける科目のことを指す。例えば、体育や道徳などの科目は試験科目と認められていない。

Oレベル試験科目は次の通りだ。

英語(必須)
母国語(必須)(中国語、マレー語、タミル語)
エレメンタリー数学(基本数学)(必須)
アドバンス数学(上級数学)
上級母国語
物理学
化学
生物学
総合科学
英文学
地理
歴史
社会学
栄養学(Food and Nutrition)(少数)
音楽(少数)
美術(少数)
中国文学(少数)
外国語(少数)などなど・・

小学校のPSLE試験の成績で、全国の生徒の相対評価でレベルが決まるのだ。トップ20%の生徒はSクラス(Special Stream)で、一般な生徒はEクラス(Express Stream)で、それより低いのはNクラス(Normal Stream)。更に、Nクラスはテクニカル(Technical)とアカデミック(Academic)に分かれている。SクラスとEクラスの生徒は中学校でOレベルを受け、Nクラスの生徒はNレベルを受ける。NレベルはOレベルよりレベルが簡単で、必須科目も少ない。

取れる科目は学力に大きく左右される。例えば、上級母国語はSクラスの生徒しか受けることができない。また、栄養学と総合科学を取る人は、一般的に「学力が低い」というイメージが強いのだ。

Oレベル・Nレベル試験の評価基準は下記の通りだ。但し、試験の成績は相対評価によるものなので、下記の評価はあくまでも一般的な基準になる。

75点以上:A1
70点〜74点:A2
65点〜69点:B3
60点〜64点:B4
55点〜59点:C5
50点〜54点:C6
45点〜49点:D7
40点〜44点:E8
39点以下:F9

試験の最終評価はポイント制になる。獲得したグレードの数字がポイント数になる。(例:A1:1ポイント、A2:2ポイントなど)つまり、ポイントは低ければ、低いほど、成績がいいということになる。

試験科目は11科目まで取れる。いくつ取るかは個人の自由だが、8科目か9科目を取るのが一般だ。但し、試験で評価されるのはそのうちの6科目のみだ。

評価される科目はL1R5という選定プロセスに基づいている。

L1:英語、または上級母国語

R5:数学(エレメンタリー、またはアドバンス)、科学(物理学、化学、生物学、総合科学のいずれ)、それから成績の良い3つの科目

簡単に説明するため、2つの例を比べてみよう。

それぞれの人の獲得ポイントはいくらでしょう?

一人目 成績 二人目 成績
英語 68 (B3) 英語 50 (C6)
母国語 90 (A1) 上級母国語 75 (A1)
数学(エレメンタリー) 71 (A2) 数学(エレメンタリー) 77 (A1)
数学(アドバンス) 60 (B4) 数学(アドバンス) 49 (D7)
物理学 73 (A2) 物理学 75 (A1)
化学 72 (A2) 化学 35 (F9)
社会 85 (A1) 生物学 75 (A1)
地理 90 (A1) 歴史 76 (A1)
歴史 70 (A2) 地理 77 (A1)


一人目:L1=英語:B3  *注意:母国語はL1ではない。上級母国語はOK。

R5

数学=数学(エレメンタリー):A2

科学=物理学:A2

一番成績のいい科目=社会:A1、地理:A1、母国語:A1

獲得ポイント:10点

二人目:L1R5ポイント数:6点(最高得点!)

ご覧の通り、二人目の平均点数は一人目より遥かに低い。F9やD7という最悪な点数があるにもかかわらず、L1R5の評価される科目にはちゃんとA1を取っているため、一人目よりは成績が良いと評価されているのだ。

中学校でOレベル試験の成績で、高校に申し込むのだ。高校には入学基準、つまり入学するための最低条件・成績がある。例えば、シンガポールの一番優秀なラッフルーズ高校だと、8点が最低条件なのだ。

3.      特別点数システム

Oレベル試験の評価基準は基本的に上記の通りだが、シンガポール独特な評価基準で、特別点数システムという学業以外のことを評価に取り入れるシステムが導入されている。

課外活動

中学校では課外活動は必修になっているのだが、課外活動も評価されるのだ。課外活動はそれぞれ評価基準が異なるのだが、例えば、出席率が8割以上とか、指導員に好印象を与えた、積極的に課外活動に励む生徒も特別評価されるのだ。また、部長、秘書などといったリーダーのポジションになった人は更に高く評価されるのだ。課外活動で高く評価された生徒は、先ほどのポイント数が1か2点引かれることになる。

例えば、試験の成績が10点で、課外活動で高く評価され、2点を引かれて、最終的に8点という高得点になる。この特別点数システムを取り組むことによって、学業だけでなく、課外活動で頑張った人も報われることになるだろう。

音楽・美術・外国語の特別プログラム

音楽・美術・外国語を取る人は少ない。特に音楽と美術では、適性テストがあって、その評価が非常に厳しくて、落とされる人が多いのだ。しかし、その特別プログラムに合格した人には、試験評価のポイント数が2点引かれることになる。

4.      シンガポール教育の独特な科目

ア.      外国語(通称:第三言語)(Oレベル編)

第三言語はSクラス(Special Stream)の生徒しか取ることができない。シンガポールでは、英語を第一言語とし、母国語が第二言語になるため、外国語は第三言語になる。

フランス語、ドイツ語、日本語、アラビア語のいずれを、中学校1年生のときから取ることを選択することができる。

すべての第三言語の授業は文部科学省認定の語学センターで行われる。生徒たちは自分の中学校での授業が終わったら、各自語学センターに移動することになる。移動時間が長く、第三言語より学校の必須科目に集中したい人が多いため、途中第三言語を諦める人は少なくない。

第三言語の先生はネイティブの先生、またはその国に留学経験のある方なので、レベルは相当高い。また、政府の援助で、年に1回交流プログラムがあって、選ばれた生徒がフランス、ドイツと日本に行くチャンスが設けられているのだ。

イ.      プロジェクトワーク

プロジェクトワークは中学校(3、4年生)と高校の必須科目の一つだ。但し、試験科目ではない。

プロジェクトワークとは、生徒たちがグループに分けて、あるテーマ、または問題点を巡って考え、調べ、それから解決策を導き出す科目なのだ。先生の指導は多少あるのだが、プロジェクトの考案と実行は殆ど生徒が行っている。

例えば、どうやって学校をより勉強しやすい環境にできるのかという議題に対して、生徒たちが考えて、必要な街頭調査や企業訪問などを実際に行って、最終結果を発表するのだ。

そうすれば、生徒たちは身近の問題に気付き、より早く社会人との接触ができるだろう。また、ある問題に対して、色々な見方から考え、自分なりに分析し、実行する経験は、将来役に立つだろう。

5.      中学校卒業後

シンガポールの義務教育は16歳まで、つまり中学校4年までだ。中学校卒業してからいくつかの選択肢があるージュニアカーレッジ、ポリーテックニック(Polytechnic)とITE(Institute of Technical Education)。

ジュニアカーレッジ(Junior College)は言葉通り、大学(College)進学のために予備するための学校だ。中学校を卒業した生徒の約2〜3割の人がジュニアカーレッジに進学する。ジュニアカーレッジは2年間だ。

ポリーテックニックは専門高等学校で、大学予備というより、専門技術を身に付く学校だ。ポリーテックニックはジュニアカーレッジと違って、コースにもよるが、大体3年間のコースだ。ポリーテックニックを卒業した後、diplomaを獲得することになる。中学校卒業生の約半分の人はポリーテックニックに進学するそうだ。但し、ポリーテックニックを卒業してから大学に入る生徒も最近増えている模様だ。

ITEは専門高等学校と似ているのだが、レベルが比較的に低いため、あまりイメージが宜しくないのが事実だ。ITEを卒業してからポリーテックニックに進学する人もいれば、滅多にいないけれど、最終的に大学に入学する人もいる。

また、近年では脱学歴社会の一貫として、スポーツ選手を育むスポーツ学校や、美術・デザイン・音楽・ダンスなどといった専門学校ができたのだ。

シンガポール高校では、大学の予備だというわけで、学校の体制は大学と似ている。レクチャーとチュートリアルの2つの種類の授業に分かれ、生徒たちは自分の取っている授業によって、教室から講義室へ移動するのだ。

受講科目は次の通りだ。

ゼネラル・ペーパ(General Paper、略:GP)、またはKnowledge & Inquiry。

母国語(但し、中学校で上級母国語を取った人は免除される。)

その他の科目(3つか4つ)

GPとKnowledge & Inquiryは世界中の政治や経済から、科学、スポーツ界の事情まで、多岐にわたる知識を生かし、分析し、議論する科目だ。高校では、理科と文科に分かれている。それぞれの受講可能科目は下記の通り。

理科:化学、物理学、生物学

文科:英文学、地理、歴史

両方受講可能:経済学、数学、音楽(少数)、数理統計・情報処理(少数)、外国語(少数)

更に優秀な生徒には、上級科目が受講できる。

どの科目にも上級科目があって、普通のレベルより遥かに難しい内容になる。

どの科目も非常にレベルが高く、理解だけでなく、正確な分析力、判断力、計画性などが問われるように試験が設定してある。

理科の科目だと、実験の授業や試験で、ある問題に対して、自ら実験を考え、計画し、実行し、データを取り、結果を分析し、反省するまでのプロセスすべてが成績評価になる。一方、GPを含む文系の科目では、教科書で習った事実を暗記するだけでなく、色々な情報を出された時、情報の元、その背景などといった予備知識を生かし、情報の正確さを判断しながら、分析し、議論して答えを導くエッセイを書かなければならない。

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